代理人に「問題あり」と感じた事件

改正社労士法・ADR法の施行を受けた特定社会保険労務士である代理人として、初の受任でした。又、相手方にも、特定社労士(会社顧問)が代理人として付き、その代理人のあり方に非常に「問題あり」と感じた事件でした。
 事件の概要は、H・T・Kの三人が創業した、ホームページ制作会社で、代表取締役であるHにより、Kが解雇されたものです。Kは、解雇による逸失利益と損害賠償を会社に請求して、労働委員会の調整を求めたものです。

 

3/9に交付された、解雇予告通知(会社顧問社労士が作成・交付)は「業績悪化による整理解雇」になっていたのですが、その後に交付された離職票(同様に会社顧問社労士が作成・交付)では、「勤務態度・業務成績不良による労働者帰責の普通解雇」に変わっていました。更には、その離職票に「この解雇理由は、解雇理由がはっきりしないので、届出上、私の独断で書いたものですので、ご了承下さい」というメモが付けてありました。社労士は、こんなことができたのかと感心してしまいました。
 会社代表取締役は、労働委員会の調整に応ずるということを当初より表明していたので、代理人間で、その後の進め方を打合せ、合意していたにもかかわらず、調整の日の4日前に至っても、申請書に対する答弁書が提出されませんでした。これでは、こちらの主張を十分に伝えられないと判断し、答弁書無しで、申請人陳述書を調整の3日前に労働委員会へ提出しました。この時点で、相手方は「打ち切りの腹だ」と判断せざるを得ませんでした。しかし、調整当日、調整の場に唐突に答弁書が提出されてきました。素人同士での話ならまだしも、特定社会保険労務士である代理人がいる事件としては、これは、明らかなルール違反です。

 

このような結果を導き出した会社側代理人の姿勢に非常に大きな疑問を感じます。労働者側が諦めないという選択をすれば、自ずと訴訟・労働審判という方法をとらざるを得ません。そのような流れの中で、会社にとって妥当な解決を得られるとは、とても思えません。調整・あっせんは白黒をつける場ではありませんから、会社代理人としては、会社としてのリスクを明確にして、必要ならば、会社へ判断材料を示し、早期の解決(当然にも会社主張を曲げる必要はありません)へ導くことが大切です。
 調整打ち切りの後、未払賃金の請求のために、会社を訪問した際に、会社の役員と話した内容から判断すると、会社としては話合い解決しかないと思っていたのだが、対抗上、労働者への損害賠償請求をぶつけざるを得なかったという印象を受けました。